【本の感想】目立たない、ささやかな物語をつむぐ|川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』

小説
Ⓒ1ミリ書店員

川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』講談社

川上未映子さんは、2007年に小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』でデビューし、翌年に『乳と卵』で芥川賞を受賞されました。

その後も、詩集や小説で数々の賞を受賞されており、2023年2月に『すべて真夜中の恋人たち』の英訳版「All the Lovers in the Night」(サム・ベット、デビッド・ボイド訳)が、全米批評家協会賞小説部門の最終候補に残ったと発表されました。

残念ながら受賞にはなりませんでしたが、今回のノミネートで、海外でも注目されている作家さんなのだと知りました。

もちろん川上さんのことは存じあげておりますよ。
海外でも読まれているらしいということも知っていました。
最新作は『黄色い家』(2023年7月時点)。

1ミリ
1ミリ

1ミリでも書店員ですからっ。

ただ、どうしても読むまでに至らなかったのは事実。
流行に乗り遅れる1ミリ書店員。
話題になると避けたくなるあまのじゃく。

でも、そんなことを言ってられないときもあります。

全米批評家協会賞小説部門の最終候補に残ったことで、これはそろそろ読んでおかないといけないかも、と感じました。

そして、やっと読んだという訳でございます。

『すべて真夜中の恋人たち』は、どんな内容?

校正を仕事にしている、三十代独身女性・入江冬子のお話です。

出版社のサイトには、「究極の恋愛」と表記がありました。

私が読んで感じたのは、日常の変化とか、己をかえりみる自分とか、仕事を介して知り合った聖や、カルチャーセンターで知り合った三束(みつつか)さんと交流していく中で、冬子が自分の気持ちを定めていくような、自分を補強していったような感じを受けた話でした。

恋愛が大きく関わっていたことは確かですが、全てが冬子色に染まってるようでした。

1ミリ
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まあ、主人公ですからね。

あとは、「多様性」という言葉を使いたくなる感じ。

まあ、ひとそれぞれですよね。

この冬子と三束さんとの関係に、川上弘美さんの『センセイの鞄』を思い出しました。
『センセイの鞄』は、十数年ぶりに再会した高校のセンセイと生徒だったツキコさんとの愛のお話です。
年の差のある相手との恋愛の物語に抵抗がなければ、こちらもぜひ読んでみてください。

『すべて真夜中の恋人たち』を読んだ感想

まず言いたいのは、主人公の入江冬子が心配になりました。
仕事はちゃんとやっているけど、ホントに大丈夫?! と言いたくなる行動が……。

自分の意志が特になく、周りに流されているような描かれかたでしたが、それでもぽっきり折れることのないしたたかな植物のような印象を受けました。

あとは、三束さんとの喫茶店のシーンが印象的でした。堅いようで柔らかい、親しすぎず他人すぎない、独特の空気感を感じさせる、あれが逢瀬というものでしょうか。

1ミリ豆知識

全米批評家協会賞とは、アメリカの権威ある賞で、「英語で出版された最も優れた書籍と批評」を奨励するために毎年行われている文学賞です。(Weblio辞書より)

こういった賞には「翻訳部門」や「海外部門」というものがありそうですが、全米批評家協会賞には、小説、ノンフィクション、伝記、自叙伝、詩、批評と分かれており、翻訳や外国文学の部門はないようです。

「英語で出版された」という部分に翻訳も当てはまるということは、翻訳する方の表現技術にも左右されるのではないかとも思いました。

『すべて真夜中の恋人たち』は、どんな人におすすめ?

  • 自分に劣等感を持っていて、少しでもそれを乗り越えたいと思っている人。
  • なにか、仕切り直しがしたいなと思っている人。

余談

川上未映子さんの本は、今まで避けて通ってきたので、読む前に気合いを入れました。

日常と地続きの、でも難解な、なんだか重い内容だったりすると、挫折する可能性があります。

いつも通勤時間や休憩中に本を読むのですが、はた目には全く悟られない、本と私の格闘が始まることに、戦々恐々でした。

実際に読み始めると、気合いを入れすぎたこともあるのか、想像よりも数倍読みやすくて、ほっとしました。
しかし、ほっとしたのも束の間。
最初から内容的に興味があって読むのと、ここらで1回読んでみておかなければと思って読むのとでは、進みが違うのです。

ちょっと時間がかかりました。
すみません。

いつもこういう作品を読むと、物語を作る人の内部には、一体どれだけの人間が詰まっているのだろうと不思議に思います。

他人の人生をのぞき見するような感覚。

実際に、モデルがいるかもしれないし、いないかもしれない。
こんな人がいてもおかしくないと思えるような、日常につながっているはずの、でも、架空のお話。
やっぱり凄いですよね、作家と言われる人は……。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。

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