泉和良『セドナ、鎮まりてあれかし』早川書房
著者の泉和良さんは、ゲーム作家であり、小説家、音楽家でもあるそうです。
2007年に小説『エレGY』で第2回講談社BOX新人賞流水大賞優秀賞を受賞後、デビュー。
『セドナ、鎮まりてあれかし』著者略歴より
この本を手にしたきっかけは、本屋さんの文庫本の棚でみかけたことでした。
著者のアイウエオ順で並んでいる本屋さんで、とりあえずア行から物色していたときに、タイトルが気になって手にした記憶があります。
カバー裏のあらすじには、「ささやかな奇蹟が結晶するー俊英作家の癒やしと再生の物語」とあり、優しいお話に違いないと思いました。
そのとき一緒に買った本、小川一水さんの『時砂の王』です。
これも良かったです。
この本も別機会にご紹介いたします。
発行が2010年、今年が2023年なので、13年前ですね。
○○歳なので、進物関係の事務作業員だったころかな。
いや、発売当初に手にしたとは限らない。
でも、結構長い間、手放さずに本棚に並んでいる本です。
どんな内容?
人間が地球以外の惑星でも生存可能になり、宇宙規模での戦争が起こってしまったあとの時代のお話です。
軍の任務中の怪我で、脳に障害を負った尾野基呂(おのごろ)空曹が、セドナに向かうことろから、お話は始まります。
セドナとは「太陽を囲む主要都市天体から成り立つ太陽圏連合軍の、最も末端の天体」です。
読んでいて、ほぼ砂漠のような印象でした。
セドナ特有の、植物や昆虫?が生息しています。
唯一、戦後一切の復興の手が入っていない惑星ということでした。
そのセドナで尾野空曹は、20年前から戦死者の遺骨を回収している伊井神田徳治郎(いいかんだとくじろう・イーイー)という老人とアンドロイドのクイミクに出会い、3人での暮らしが始まります。
脳に負った障害のせいで、子どものような言動になってしまった尾野空曹はゴロと呼ばれ、遺骨回収の仕事に奮闘します。
読み始めたとき、少し違和感を感じました。
それは、物語の進行役として「私」という存在がでてくるからです。
「私」が、今見ている状況を語ることでお話が進んでいきます。
ただ、「私」に当てはまる登場人物がいないんです。
「神の視点」かと思いましたが、どうやら違うようで。
この「私」とは一体何者??
読み進めるうちに、それが少しずつ明かされ、セドナに集まった者たちですら知り得なかった、奇蹟のような事実が解き明かされていきます。
ミステリーのように殺人事件が起きるわけでもなく、冒険活劇でもなければ、この3人が軍の策略で戦争の火種になるということもありません。
セドナという惑星の日常を、穏やかに描写した作品です。
イーイーとクイミクのキャラクターも魅力的で、ゴロを温かく見守ります。
ときには厳しく、ときには年上ぶって(?)交流を深めます。
切ないけれど、心が満たされ、優しくあたためてくれるようなお話でした。
1ミリ豆知識
タイトルの「あれかし」の意味ですが、こうあって欲しいと願う気持ちを表わすそうです。
「鎮まりて」の鎮まるは、重量あるいは威力のあるものがおのずから下降して安定する意味だそうです。あとは神霊などが鎮座するという意味もありました。広辞苑第六版電子書籍版より
『セドナ、鎮まりてあれかし』。
まさしく! というタイトルです。
どんな人におすすめ?
- 優しい気持ちになりたい人。
- SFは読みたいけど、サイエンス要素が高くない作品を探している人。
- SFというより、ファンタジーが好きな人。
余談
このブログを始めてから、再読する本が多いのですが、今回の『セドナ、鎮まりてあれかし』は、おそらく前回と同じ箇所で涙ぐみました。
素敵なお話を読むと、まだ続きを読んでいたいと思ってしまいます。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。