村田沙耶香『授乳』講談社文庫
『コンビニ人間』で第155回芥川賞受賞を受賞した作家・村田沙耶香さんのデビュー作「授乳」が収められた作品集です。
『コンビニ人間』は、読んだ読まないに関わらず、記憶残っている方も多いのでしょうか。
村田さんご自身が、コンビニエンスストアで働かれていたというようなことも聞きました。
テレビなどで拝見したとき、話し方とかほんわかして、柔らかい印象の方でしたが、作品を読むと何とも言えない苦味を感じます。
『殺人出産』は読みましたが、巷で「クレイジー沙耶香」と呼ばれる理由が分かるような気がします。
どこまでも純粋さを失わない感じ。
狂気って純粋だからこそ怖いんですよね。
『授乳』は、どんな内容?
間違っても直木賞ではないなという、純文学。
純文学がなにかといわれると、数学の答えのように確信を持って「これ」という答えは分かりません。
私にとって純文学は、心をえぐるような感情を、テーブルの上にぎちぎちに並べて、「あんたの中にもあるんやで」って、見せつけられているように感じます。
「もう分かったから、勘弁してください!」って思わず言ってしまうような。
おそろしや、純文学。
受験を控えた私の元にやってきた家庭教師の「先生」。授業は周に2回。火曜二数学、金曜に英語。私を苛立たせる母と思春期の女の子を逆上させる要素を少しだけ持つ父。その家の中で私と先生は何かを共有し、この部屋だけの特別な空気を閉じ込めたはずだった。 「――ねえ、ゲームしようよ」。表題作他2編。
『授乳』講談社文庫あらすじより
「授乳」は、中学生の直子が、挨拶のために家に来た大学生の家庭教師の先生の足に、興味を惹かれるところから、始まります。
リビングに入っていった先生の足跡を探すために、廊下に這いつくばる直子。
私は制服のスカートをまくりあげ廊下に膝をつき、ほっぺたを床になでつけた。先生の足の裏の跡がどこかに残っていないかながめた。
村田沙耶香『授乳』講談社文庫、P10、2010年。
この一文で、直子さんの興味の対象への行動が、少し怖いものかもしれないと思いました。
一見普通の女の子だけれど、どこかおかしな直子さん。
そして先生も、直子に引きずられたのか、もともとそういう人だったのか。
直子と先生の関係は、どこへ向かっていったのか。
実際に読まないと、奇妙な関係が作り上げられていった直子、もしくは二人の「濃さ」は感じ取れないのではないでしょうか。
『授乳』には「コイビト」と「御伽の部屋」という作品も収録されています。
「コイビト」は、自分のよりどころをハムスターのぬいぐるみ「ホシオ」に求めている大学生の真紀と、オオカミのぬいぐるみ「ムータ」が恋人だという小学生の美佐子のお話。
美佐子のムータへの愛情を目の当たりにして、真紀がどうなってしまうのか気になる作品です。
「御伽の部屋」は、熱中症で倒れた佐々木ゆきを、介抱してくれた大学生の関口要二が登場します。
ゆきは、いつのまにか要二の部屋に通うようになり、そこで二人が恋人とはいえない奇妙な関係を作り上げていくお話です。
要二の友達のケンが現れ、少しずつ何かかずれていくような感覚がありました。
ゆきが幼い頃に仲良くしていた「正男お姉ちゃん」との過去の話を間にはさみながら、お話は進みます。
最後に、ゆきの前に現れた理想の他者とは一体だれか。
読み始めたら、読み終わらずにはいられない作品でした。
『授乳』は、どんな人におすすめ?
- 純文学ってどんなものか知りたい人。
- 自分が持ってるはずがないと思っていた感情を、自分の中から引きずり出したい人。
- 小説の中とはいえ、どんな人間が存在し得るかを知りたい人。
余談
純文学の定義って、なんでしょうか?
聞いた話では、純文学には決まった型がないということでした。
エンタテイメントの推理ものやファンタジーなどは、作品内に一定のルールや世界観が定められていますよね。
そうしないと、ご都合主義になってしまいます。
それは、作品としての質が問われることになりますからね。
なんていいながら、定義とか一切考えずに読書をしています……。
実際、よく分かっていません。
すみません。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。