宮部みゆき『さよならの儀式』河出文庫
宮部みゆきさんは、『理由』という作品で第120回直木賞を受賞された直木賞作家です。ミステリーやサスペンス、時代ものにファンタジー、SFにゲームのノベライズなどもされ、多彩な作品を残している小説家です。
本書は、2019年7月に発売された単行本の文庫化で、2022年10月に発売されました。
帯には「淡く美しい希望が灯る時――宮部みゆき、初のSF作品集」とあります。
どんな内容?
この作品集は、8つの短編で構成されています。
「母の法律」「戦闘員」
「わたしとワタシ」「さよならの儀式」
「星に願いを」「聖痕」
「海人の裔」「保安官の明日」
一つずつ紹介できれば良いのですが、うまくまとめる力と自信がないので、私の心がえぐられた一編だけご紹介いたします。
「母の法律」です。
まず最初に、タイトルがSFとすぐ結びつかなかったというのが正直な感想でした。そのため、「母」とSFでどんな関係が生まれるのか、読む前に少し考えました。
例えば、「母」は人工知能で、「母」が構築するルールによって世界が全て回っているとか。ちょっとよくある設定のようですね。
これが私の想像力の限界でした。
「母の法律」は、「被虐待児の保護と育成にかかわる特別措置法」という法律が制定された世界でのお話です。
通称〈マザー法〉というこの法律で、ある家族に迎えられ、12年間をそこで過ごした16歳の少女「二葉」の視点で話しは進みます。
幼い頃、すでに子ども2人を育てる夫婦に迎え入れられた二葉ですが、その家族も血のつながりはなく、子ども2人も養子でした。仲良く暮らしていた家族が、<ママ>が亡くなったことにより、一緒にいられなくなります。二葉は<姉>の一美とグランドホーム(地元の養家庭のない子どもたちが生活する場所)へ生活の場を移します。進学の話や、実の親の話が絡み、二葉はどう考えて、どうするのかということが描かれています。
最後のシーンは、二葉の感情を自分のことのように思ってしまいました。
「結局そういうものなんだよね、人間って」と、どうあがいても、どうもできないことに対するあきらめというか、自分自身の「良くも悪くも平均」というコンプレックスが刺激されました。
生きてくために、ある種の感情や記憶にフタをすることってありますよね。
そのフタをギギッと開けられてしまったようで、そのために「心がえぐられた一編」になったのです。
上手くご紹介できないことがくやしいですが、ご容赦ください。
巻末には大森望さんの解説がありました。
そこには「宮部みゆきと言えば、(少なくとも僕にとっては)押しも押されもしない現役SF作家」と書かれていました。私は宮部さんの時代ものが好きで、そればかり読んでいたためか、SF作家と言われピンときませんでしたが、続きを読んだら「ああ、確かに」と納得しました。
二・二六事件を題材にしたタイムトラベラー小説『蒲生邸事件』(第18回日本SF大賞受賞)
(作品解説より抜粋)
『龍は眠る』『鳩笛草』『クロスファイア』などの超能力SF群
時代小説《霊験お初捕物控》の『震える岩』『天狗風』もSF要素を含む
私が初めて読んだ宮部作品は『我らが隣人の犯罪』で、ミステリーの短編作品集でした。うっかりネタバレしないように内容紹介はしませんが、あっと驚いた作品がありました。読んだときの驚きは今でも覚えていて、当時はしばらく宮部作品ばかり読んでいました。
そこで好きになったのが、時代もののお話です。不思議な出来事の謎を追い、ミステリー要素満載で、しかも、登場人物みんな好き! というくらい、人物の描きかたが温かくて、小説家ってすごいなと思ったきっかけでした。
そのため、ミステリーや時代もの、人情ものという印象が強かったですが、SF作家でもあるということですね。作品集を出していただいて感謝です。
どんなジャンルでも、新たな作品を誰とも被らずに書ける小説家って本当にすごいですよね。私はこのすごさをきちんと言葉にできるように努力いたします。
どんな人におすすめ?
『さよならの儀式』は短編集なので、SF作品をあまり読まない人でも読みやすい作品です。
そして、宮部作品を読んだことがない人も、「宮部テイスト」は充分味わえますので、次の読み本候補にいかがでしょうか。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。