川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社刊)
ついに、1ミリ書店員の気になっていた本ランキング上位の本を読めました!
2017年に発売されたときに、タイトルが気になりすぎて、面白そうで、読みたいって思っていたんです。
だったら、そのときに読みなさいよって話になりますが……。
「流行に乗り遅れる書店員といえば、1ミリ書店員」といっても過言ではありません。
そのときに読まないんです。
ちょっとしたあまのじゃくです。
時間が経って読むということには、良いこともあるんですよ。
話題になった作品の人気の行方が分かるということです。
そのあとの刊行作品の数なども分かります。
次に発売される本も、同じ系統なのか、はたまた全く違うジャンルの本なのか、など。
読もうかなと思っていたものが、時間が経って文庫化されるときも話題になったりすると、「その人気、衰え知らず」と感じます。
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』も文庫化されています。
実際に読んでみて、読みたいと思っていた本は、毒にも薬にもならないということはないです。
そもそも、面白い本は、いつ読んでも面白いはず。
あまりに、そのときの時勢が入り込んでいると、難しいかも知れませんが。
これは、完全に趣味で読みたい本のことなので、あしからず。
どんな内容?
簡単にいうと、鳥類学者という希少な存在である、川上和人さんのお仕事の話ですね。
なぜ「希少」とつけたかを知りたい方は、ぜひ本書をお読みください。
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』が発売されるまでは、「鳥類学者」というものに意識を向けたことがありませんでした。
子ども向けの図鑑シリーズでも、「宇宙」と並んで「鳥」で一冊あったりするのに、ごめんなさいという気持ちでいっぱいです。
世の中知らないことだらけです。
そして、タイトルに『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』とありますが、まるまる一冊、鳥類学者として関わった仕事についてのお話です。
あえて俗っぽくいうと「ツンデレ」な本です。
私の読みが浅かった場合は、ご容赦ください。
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』は、知らない世界の貴重なお話を知ることができて、面白かったです。
しかし、読み終わるまでに少し時間はかかりました。
知らない職種の仕事の話ということで、私が日常で使わない言葉も多く、生き物の学術名がカタカナで表記されているのも、私にはすんなり読めなかった要因でした。
カタカナ ヨミヅラインデス ワタシ。
だからといって、学術的なことばかりで、チンプンカンプンということではありません。
安心してください。
あとは、小ネタが多くて時間がかかったかな。
小ネタって? てなりますよね。
まるで、本当にそういう言い回しがあるような、真面目な論調の文章を装って、ちょこちょこジョーク(?)が挟まっているんです。
余りに淡々としているので、最初は読み飛ばしてしまうんですよ。
でも、しばらくして「あれっ」と立ち止まり、読み返し、「まさか、これって」という、「突っ込みどころ」が、満載だったんです。
もうこれは、鳥類学者だからではなく、川上さんだからこその文章なんだろうなと、おでこをぺーんと、ひとたたきしました。
は~、まいったまいった。
慣れると、にやにやしながら読み続けることができます。
読み終わった今だからはっきりいえますが、タイトルからすでに茶目っ気が満載なんですよね。
改めて目次を読んでも、どこかの何かが頭に浮かぶようなフレーズが。
読者の興味を惹くような書き方をされてらっしゃって、すごいですね。
どうしても、私が好きな表現を一カ所ご紹介したいので、本書を読むまで知りたくないという方は、ここまでのおつきあいで構いません。
読んでいただきありがとうございます。
では、チラ読みしたい方は、引き続きお付き合いください。
ウグイスは、日本人のソウルバードである。北海道から花札まで広く分布し、ホーホケキョと親しまれている。法華経を知らない幼子でも、その声を聞けば春の訪れを知り、花粉症を思い出してくしゃみする。
川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』新潮社、33ページ。
「ソウルバード」という言い方は初めて聞きましたけど、断定されてるし、そういうものなんだろうと流してしまいましたし、「北海道から花札まで広く分布し」という部分も、さらーっと読んじゃったんです。
「ふんふん」って心でうなずきながら。
北海道からっていうから、北から南までっていうことかと推測して読んで、「花札」が沖縄のどこかの地名かと思いましたよ。
あれ? 花札って、あのかるたの?
ウグイスって、絵札の?
間違ってないけど、分布の仕方がちょっと違うでしょ。
と、こんな感じで、勝手に騙されたみたいになりました。
あちこちで勝手に騙されました。
私、詐欺に遭いやすいかも、と不安になるくらいです。
こんな具合で茶目っ気たっぷりの表現が、あらゆる知識の引き出しから、ほいほい出てくるので、読んでるこっちも、思わず「知らないと分からないでしょっ」って言ってしまいたくなりました。
というわけで、非常に読み応えありました。
改めてお伝えしますが、もちろん鳥研究に関しての貴重な体験を語ってくださっていますし、とても良い読書体験をさせていただきました。
子どもの頃にこの本と出合いたかったです。
そうしたら、もっと色んな世界があることを想像出来たのに。
人にもお勧めしたい一冊になりました。
どんな人におすすめ?
- 鳥類学者ってどんなことしてるの? って思った人。
- 『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』というタイトルを読んで、「絶対好きでしょ」って思った人。
- 小説以外の本を読みたいなと思っている人。
余談
川上さんは何事にも全力で取り組んでいらっしゃる方のように感じました。
もし、小学校高学年以上のお子さんを育ててらっしゃる方で、お子さんが毎日あんまり楽しくなさそうに過ごしているなと思ったら、一度で良いので『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』をおすすめしてみてください。
読書を無理にさせることはできませんが、興味があれば、自ずから読んでくれると思います。
こんな本あるんだ、こんな仕事あるんだって、知ってもらうだけでも何かの選択肢は増えますからね。
そして、いろいろ小ネタを挟んでくれてますから。
今の世代のお子さんだと、なじみがないものも多いかもしれませんが、一緒になって「何言ってるのこの人―」って楽しんでみてください。
少し長くなってしまいましたが、今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。