【本の感想】信頼ってどんな匂いがするんだろうか。孤独な二人の人愛物語|千早茜『透明な夜の香り』

小説
Ⓒ1ミリ書店員

こんにちは。
飽きっぽい性分のため、前回の本の紹介から時間が経ってしまった1ミリ書店員です。

1ミリ
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三日坊主も、繰り返せば三日以上続くんだぜ。

今回は、『しろがねの葉』で第168回直木賞を受賞された千早茜さんの香りを扱った物語を読みました。

千早茜『透明な夜の香り』集英社

元・書店員の一香は、古い洋館の家事手伝いのアルバイトを始める。そこでは調香師の小川朔が、幼馴染の探偵・新城とともに、客の望む「香り」をつくっていた。どんな香りでも作り出せる朔のもとには、風変わりな依頼が次々と届けられる。一香は、人並み外れた嗅覚を持つ朔が、それゆえに深い孤独を抱えていることに気が付き――。香りにまつわる新たな知覚の扉が開く、ドラマティックな長編小説。

『透明な夜の香り』集英社文庫より

千早茜さんは、閉ざされた島で生きる姉弟の物語を描いた『魚神』で、2008年に第21回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。

さらに同作で第37回泉鏡花文学賞も受賞されていて、『魚神』は、ゴシックという言葉がぴったりな作品です。

文章は、情景描写の表現に独特な部分があり、繊細という印象にもかかわらず、力強い。
色も熱も感じられるのに、冷ややかさが底に潜んでいるような、興味深い作家さんです。

『透明な夜の香り』を読んでまず思ったことは、「いい」でした。
「天空の城ラピュタ」に登場する空賊ドーラの息子の一人が、ドーラの若いころの洋服を着たシータを見て言う「いい」と一緒。

1ミリ
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いいっ。

これは恋愛小説ではなく、博愛もしくは人愛小説。
人としての、存在同士の情、のような。
伝わりますでしょうか。

恋愛小説に苦手意識がある私は、本の紹介やPOP、帯などに、愛だ恋だという文字が躍っている作品は、ひとまず避けます。

実は私、書店員でありながら、千早茜さんも恋愛小説家だと勘違いしており、直木賞を受賞したあとも、あまり読もうという気持ちが起きませんでした。

読むきっかけになったのは、次に読む本の本選びでお世話になっている「ほんタメ!」というyoutube番組です。
MCのあかりんが紹介していた動画を見て、読むことを決めました。

1ミリ
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紹介上手な、あかりんの手腕にはまる。

この作品は、調香師の元で働くことになった(いち)()の視点でお話が進みます。

仕事を辞め、引きこもっていた一香がスーパーで見かけた、家事手伝いの求人広告に目を留め、応募します。
一香は、履歴書の送り先の人からの夜中の電話で、その人の声を聴いて、深い声で紺色のようだと表現します。
そして、紺色のワンピースを着て、面接に向かうことを決めます。

この、相手の声を色に例えて、さらにその色のワンピースを着ていくことにする場面で、私はこの作品に落ちました。

私の理性が「自分だったら夜中の電話にまず出ないし、現実的にありえない」と言いました。
しかし、「まあ素敵っ」と私の感情が千早さんの肩に寄りかかってしまいました。
それがおかしくないと思える作られた世界観に、どっぷり浸かってしまったのです。

そのあと一香は無事採用になり、調香師の朔と新城、年配の庭師とともに、日々を送ります。
元同僚や一香が住むアパートの大家さんなど、あたたかい人たちに見守られながら、一香も元気になっていきます。
色々な依頼人との出来事であり、朔や新城について少しずつ知っていき、一香は過去の出来事と向き合うことになります。

作中、このままで終わりなのかと、暗澹とした気持ちになることもありましたが、読み終わった後に、ほっとしました。

内容はもちろん素晴らしかったですが、非常に読みやすく、あっという間に読み終えました。

調香師のお話なので、香りについての表現が随所に見られます。
そこかしこから、匂い立つというのでしょうか。

ぜひ、ご一読いただきたい。

他の本も読みたいなと思って探したら、『透明な夜の香り』の続編というか、短編集が発売されていることを知りました。
しかし、まだ発売されたばかりで文庫化されていません。
文庫ラバーにとっては、悲しい瞬間です。

1ミリ
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浴びるように単行本買えるくらい小金持ちになりたい。

興味を持たれた方は、短編集もご堪能ください。
私はまだ読んでいなくて恐縮ですが。

『透明な夜の香り』どんな人におすすめ?

  • こころ穏やかに本を閉じたい人。
  • 登場人物にエールを送りたい人。
  • 本を読んで、香りを味わいたい人。

余談

文庫版『透明な夜の香り』の解説が、なんと小川洋子さんでした。

というのも、わたくし小川洋子さんのお話が好きなんです。
実は『透明な夜の香り』を読みながら、小川さんの『薬指の標本』を思い浮かべました。
文章の感じも含めてなんですが、物語の冒頭も求人広告から始まったりして『薬指の標本』に似てるなと。

好きな作家が、新たに好きになった作家の作品の解説を書いているなんて。
嬉しいことこのうえないです。
しかも私が感じた、言葉で表現できなかったことも、小川さんがきちんと言葉にされていて、うなずきながら読みましたよ。

さすがは作家ですね。
やっぱり小川さんはすごい。
そして、他の千早作品を読むしかない。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。

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