【本の感想】「読んだら読む前には戻れない」を味わえる|ディーノ・ブッツァーティ『動物奇譚集』

小説
Ⓒ1ミリ書店員

ディーノ・ブッツァーティ『動物奇譚集』長野徹訳、東宣出版

ディーノ・ブッツァーティは現代イタリア文学の代表的作家で、『動物奇譚集』が発売された2022年は、ブッツァーティの没後50周年だったそうです。

この本を読もうと思ったきっかけは、万城目学さんのTwitterでした。

普段好みが一致しない森見登美彦さんと、めずらしく好みが一致したらしい『タタール人の砂漠』という作品があると。

ほほお、これは読んでみなければと、さっそくキーボードをタタンとして、作品内容をネット検索しました。
昔は、直接本屋へ行くか、図書館で所蔵在庫を検索していたころを思い出しました。
恐るべし科学技術。

万城目さんと森見さんがおもしろいと言ったのであれば、内容を確認しなくても読む気満々でした。

1ミリ
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私の職場でも売っていたので。

タタンと調べなければ、『タタール人の砂漠』を読み、今頃はその記事を作成していたことでしょう。まあ、調べたおかげで『動物奇譚集』という本に出合えたわけでして。

『動物奇譚集』は、ネズミや犬などが登場する、ファンタジー要素も含まれた作品集です。
まあ、タイトルも奇譚集ですからね。

1ミリ
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不思議な話、好き。

『動物奇譚集』の表紙の絵もブッツァーティの描いた絵だと知りました。
大きなお屋敷の敷地の庭に、大きなブルドックが伏せて上目づかいでこちらを見ている姿です。
この目と、パンみたいな前足がかわいい。

といわけで、ふわふわっと『動物奇譚集』に引き寄せられて、読むことになりました。

ごめんよ、『タタール人の砂漠』。

Twitterでもつぶやいたことがあるのですが、今回のように、読もうと思っている本と、違う本を読んでしまっていることが、よくあるんです。

結局、自分の好みに引き寄せられてるってことですかね。

1ミリ
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『タタール人の砂漠』もあとで読みますよ。

どんな内容?

デビュー当時から最晩年に至るまでに書かれた〈動物〉が登場する物語を集め、ブッツァーティの作品世界の重要な側面に光をあてたアンソロジー。

(表紙折り返し部分より一部)

36作品からなる作品集で、犬や魚、蠅、魚、本当にいるのか分からない生き物たちなど、全ての作品に生き物が登場します。

犬と人間の逆転話や、ひたすらにゴキブリを観察する話など、摩訶不思議で多様な世界が楽しめます。

デビュー当時から最晩年までに書かれた作品が、発表の年代順にまとまっていているので、作家の熟成度合いが分かるのもおもしろいかも。

1ミリ
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未発表作品も二つあり。

今回私は、「空っぽの牛」が一番心に残りました。

屠畜場へ連れて行かれることになった泣き続ける牛をめぐって、その農場の農夫と、牛の鳴き声に足を止めた地主の立ち話が作品になっています。

小説を読むときって、自分がもしこの登場人物だったら、どう考えてどんな行動をするかを想像したりしますよね。
そうやって、自分なりに話しの流れとか結末の可能性を考えて、結局書いてあるこの流れが一番だと納得してからでないと、その物語を読んだことにはならないような気がしています。

作家の方は、ベストな状態で作品を発表しているはずなので、発表したときの形が一番良いのは当たり前かもしれませんが。

「空っぽの牛」を読んだ後に、自分が牛、農夫、地主だったら、どう感じるだろうかを考えました。

その結果、牛目線が一番きつかったです。
理不尽なんですもの。
しかし、その牛はそういう運命の下に生まれてしまったし、農夫にって牛は大事だけれど、農場主としての立場も考えなければならない。
それは地主も一緒で、どうにかする手段はあるけれど、自分が関わるべきではない、と。
「したいこと」「できること」と「しないこと」。
最後の地主の言葉を読んで、脱力しました。
人間のエゴを突きつけられたっ。

1ミリ
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そして私も1ミリだけど、人間でした。

訳者の長野徹さんのあとがきに、ブッツァーティは「人智を越えた謎、日常の世界の向こう側に隠された神秘を表現する」とありました。
それらを描く感性の根底には「動物への深い共感と敬意」があるのだろうとも。

最近「多様性」という言葉をよく聞きますが、ブッツァーティはもっと昔から、人間だけではない「生物多様性」という考えを持っていたことが分かりました。

どんな人におすすめ?

  • 犬猫だけではない、カエルや蠅などの生き物のお話を読んでみたい人。
  • イタリア文学を読んでみたい人。
  • ユーモアのあるお話も読みたいし、考えさせられるお話も読みたい人。
  • 確実に目に見える分かりやすい結末だけが全てじゃないと実感している人。

今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。

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