こんにちは。
知らぬ間に、職場の人間が1人、また1人と消えていっています。
蜘蛛の糸に釣られていったのでしょうか。
ここは地獄だったのだなあと、周りを見渡す1ミリ書店員です。
そんな私を、水族館の大水槽の中に「ぼっしゃーん」と放り込んだ物語をご紹介します。
おぼれてはいませんよ。
岩下悠子『漣の王国』東京創元文庫
どんなお話?
京都が舞台のお話です。
水泳の才能と美貌を兼ね備えた1人の青年、綾部蓮が自ら命を絶ちます。
学生時代に同じときを過ごした人々が、青年を通して紡いだ自らの思い出をすくい上げ、今と向き合う、というようなお話だと思いました。
著者の岩下悠子さんは、「相棒」や「科捜研の女」などのミステリ・ドラマの脚本を数多く手がけていらっしゃる方のようです。
2012年に「熄えた祭り」という小説を発表し、その作品が収録された連作集『水底は京の朝』が刊行されています。
そして2作目が、『漣の王国』。
こちらも連作短編集です。
『漣の王国』の感想
文章も繊細で、幻想的な雰囲気がとても私好みでした。
あっという間に読んでしまったのがその証拠です。
切ないけれど、読んで良かった、出合えて良かった作品です。
文庫版の帯に、恩田陸さんのお言葉が載っていますが、私が読んで感じたことが見事に言語化されていました。
やっぱり、作家さんてすごいですね。
ぜひ、書店でご確認を!
連作短編集で、すべてのお話で存在感を示すのは、綾部蓮です。
一編ずつ、違う人物が語ります。
綾部と同じ水泳部の女性、学生当時、綾部と付き合っていた女性、図らずも綾部と関わりを持った医学部の男性など。
この作品には、綾部蓮がなぜ命を絶ったのかという謎があります。
読み進めてみると、連綿とつながってきたものや、つなげたい絆などが見え、どうにかなって欲しいけど、どうにもできないこともあるんだよねという気持ちにさせられました。
もどかしいというか切ないというか。
その気持ちが、水族館の大水槽を見ているときの気持ちと重なりました。
本来なら、大海原で悠々と泳いでいるはずの魚たちが、海とは比べものにならないような狭い場所で、回遊している姿を見て、いたたまれない思いを抱く、あの感じです。
美しいけれど、残酷なお話ともいえるでしょうか。
『漣の王国』どんな人におすすめ?
- 心に残る作品を読みたい人。
- 現実に入り交じる幻想を感じたい人。
- もどかしくなりたい人。(そんな人いるのかな?)
余談
今、前作の『水底は京の朝』を読んでいます。
こちらは『漣の王国』よりも読むのに手間取っていますが、作品の雰囲気は一緒かなと感じました。
ドラマ制作の女性監督が語り部です。
こちらも幻想的な雰囲気満載。
そして、『漣の王国』もそうでしたが、他人を翻弄するタイプの人物が登場します。
ちょっと厄介ですけど愛着が湧くというか、読んでいて面白いです。
岩下さんの本を読んでいると、自分が知らない日本語が、まだまだたくさんあるんだなと勉強になります。
もっと自分が感じたことを言語化できるよう精進いたします。
ずっと同じことを言っている気がします。
進化より退化を感じる今日このごろ。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。