こんにちは。1ミリ書店員です。
最近、シフトが厳しい状況に入っております。
連勤中の半ばが一番苦しいかと思いきや、最終日の一日前の朝がキツい!
「死んだ魚のような眼」という表現がありますが、まさしくそれ、だったのではないかと思います。
そんななか、不条理小説を読んでしまいました。
ダニイル・ハルムス『ハルムスの世界』ヴィレッジブックス
著者のダニイル・ハルムス(1905~1942)は、ペテルブルグ生まれのロシア・アヴァンギャルドを代表する作家のひとりで、不条理小説の先駆者とも言われています。
スターリン政権下でアヴァンギャルド芸術が弾圧を受けるようになったため、1941年に逮捕された翌年に刑務所で死去。ハルムスの作品はソ連では長らく当局によって禁止されており、世間にも知られていなかった。1970年代にアメリカとドイツで「発見」された後、ソ連でもペレストロイカ期に解禁されて、以後ロシアをはじめとする欧米諸国でカルト的な人気を集めている。
ダニエイル・ハルムス『ハルムスの世界』ヴィレッジブックスより
今回『ハルムスの世界』を読もうと思ったきっかけは、「ダ・ヴィンチWeb」です。
白水社から復刊発売された『ハルムスの世界』が紹介されていて、不条理小説というものに興味を持ちました。
ちなみに、私が読んだのはヴィレッジブックスから出ていたもので、
今回は図書館で借りました。
「ダ・ヴィンチWeb」には、「落ちていく老婆たち」の文章の一部が掲載されていたのですが、これを読んで、読むしかないと思いました。
ファンタジー的な不思議なお話だと確信してたのですが、全然違いました。
本書は、超短編が多く、1ページにも満たないものがたくさんありました。
なので、内容を紹介してしまいます。
ひとりの老婆が、好奇心にかられて窓から身を乗り出して、落ちて死に、2人目の老婆も同様に窓から落ちて死んで、3人、4人と立て続けに死んでしまう。そして、6人目の老婆が窓から落ちで死んだ……。
というお話。
老婆が6人死んだアパ-トで、それをただ見ていた人物がいるのですが、老婆が死ぬのを見飽きた後、その人物は市場へ出かけます。
さて、それはなぜか。
もちろん、その理由も書いてあるのですが、6人もの老婆が窓から落ちて死ぬのを見ていたことと、全然関係ないんですよ。
「なんじゃそれ」なんですよ。
不条理小説ってこういうものなのだろうか。
老婆のお話は本書の3番目の作品でした。
本書の1番目に収録されている「青いノート №10」という超短編がありますが、私は度肝を抜かれました。
ある男について書かれた作品(というほど文字が費やされていないが、その理由もよく分かる)ですが、結局その男には何もないから、誰の話かよく分からないので、話すのをやめるというお話。
おぉうっ。
と、うめきました。
途方にくれました。
一体私はどうしたらいいんだろうかと悩みました。
普段本を読んでいるときは、理解したことや感情などを、本とやりとりするような気持ちで、読み進めています。
今回は、それが全くできませんでした。
ただただ、本の側から流れてくる情報を飲み込んでいる感覚。
そしておぼれるところでした。
この本ほど、こんなに「なんじゃそりゃ?」「どういうこと??」と思った本はありません。
大気圏まで軽く投げ飛ばされて、宇宙空間で漂うかと思いきや、全く別次元の空間に蹴り飛ばされた感じです。
分かりますでしょうか? この気持ち。
正直にいうと、不条理小説というカテゴリーがあることを知りませんでした。
不条理とは「道理に反すること。不合理なこと」。
または「実存主義の用語で、人生に意義を見出す望みがないことをいい、絶望的な状況、限界状況を指す。特にフランスの作家カミュの不条理の哲学によって知られる」と辞書に載っています。
不条理小説といえば、カミュやカフカが挙げられるようですが、日本の作家だと、安部公房(未読作者)が代表的なようです。
カフカの『変身』が、不条理小説に分類されているなんて、今回初めて知りました。
たしかに「朝起きたら虫になっていた」なんて、おかしいですもんね。
なんでよって思いますもんね。
私は、ジャンルがよく分からないものは、ほとんどファンタジーに分類してます。
おいっ(自分に突っ込みました)
理解しきれない不条理小説とはいえ、ハルムスが生きていた時代を思うと、こういう形ででも、心にあるものを吐きだしていかなければ、生きていけなかったのかもしれない、とも感じました。
小説が書かれた時代背景などについては、作品と作品の間のにあるコラムで教えていただけますので、ご安心を。
『ハルムスの世界』どんな人におすすめ?
- 毛色の違うお話を読みたい人。
- 自分が築きあげた固定観念から、放り出されたい人。
- 読みながら、物語もしくは著者に突っ込みを入れたい人。
- 新しい世界を覗きたい人。
余談
ふと思ったのですが、合理性のない不条理小説とミステリなどの謎解き小説は、共存できるのでしょうか。
早速ネットで検索してみました。
『不条理な殺人』というタイトルの作品が二つほどヒット。
ひとつは海外作品で、もう一つは日本の人気作家10人からなるアンソロジーです。
どちらも読んでいないので、あらすじ的なものを読みましたが、不条理な状況の殺人の謎を解き明かす感じのようでした。
そういえば1ミリ書店員は、日常で意味が分からない現象(?)をたまに見かけます。
そのうちのひとつをご紹介します。
川沿いの公園の桜の木の下で、黒いスニーカーが揃えて置いてあるのを見かけました。
誰かが忘れたのかな?
靴を脱いでいたなら、その人は裸足で家に帰ったのだろうか。
そして、一週間くらい経つと、それがなくなっている。
そのときは、掃除の人が持っていったのかな? と思っただけでした。
しばらくすると、今度はより新しいスニーカーが同じように置いてありました。
同じ場所に。
さらにそれが一週間くらい経つ頃に、またなくなっている。
そうして、またしばらくすると、今度は茶色のスニーカーが同じ場所に置いてある。
そしてそして、三度、なくなる。
みたいな感じです。
思い出す度に、あれは一体何だったんだろうか、と物思いに耽ったり。
誰が何のためにどうしてそこにスニーカーを置き去りにしたのか。
うーん、これも不条理? これは理由が分からないだけで、不条理ではないのか……?
てなことが、あったり、なかったり、あったりします。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。