田辺聖子『おちくぼ姫』角川文庫
この本は、2023年本屋大賞の発掘本部門の「超発掘本」に選ばれた作品です。
『おちくぼ姫』は、『源氏物語』以前の時代の作品『落窪物語』を、芥川賞作家の田辺聖子さんが、若者向けに現代訳した作品です。
田辺聖子さんと言えば、妻夫木聡さんと池脇千鶴さんの主演で実写化された『ジョゼと虎と魚たち』をご存じの方も多いのではないでしょうか。
アニメ化もされてましたね。
そんな田辺さんが、古典の面白さを教えてくれます。
どんな内容?
「おちくぼ姫」と、評判の貴公子・右近の少将の藤原道頼との純愛のお話です。
本書にもありましたが、「王朝版シンデレラ物語」です。
高貴な生まれにもかかわらず、意地わるな継母に縫い物ばかりさせられている貴族の姫君。落ちくぼんだ部屋にひとりぼっちで暮らす彼女は、邸の者からも「おちくぼ」と呼ばれていた……。そんなある日、都でも評判の貴公子が姫君の噂を聞きつけて求婚を!熱心な貴公子に姫君の心も動かされるものの、さまざまな問題が立ちはだかる。はたして二人の恋の行方は……?
『おちくぼ姫』裏表紙のあらすじより
このあらすじが全てを語っているといっても良いと思っています。
結末は読んでからのお楽しみ、ですが。
補足するならば、この二人を温かく助けてくれる存在について。
「おちくぼ姫」を慕う女房(お世話係みたいな人)の阿漕(あこぎ)と、その夫の帯刀(たちはき)です。
帯刀は仕事上の名前で、皇太子の側で刀を持ってお守りするという役のことです。名前は惟成(これなり)。
阿漕に振り回される帯刀。
大事なところで、失態を犯す帯刀。
がんばれ、帯刀。
そんな周辺の人物も生き生きと描かれています。
若干「おちくぼ姫」の印象を薄く感じるのは、この二人がいるからかも?
1ミリ書店員の感想
不遇な生活を強いられていた女の子が、素敵な王子様と出会って、幸せになる。
夢ですよね。
不遇な環境でなくても、素敵な王子様もしくはお姫様に出会いたいものです。
しかも、現実逃避できて、幸せな結末が想像がしやすいサクセスストーリー。
また、古典とはいえ、田辺さんの文章が軽やかで読みやすいんです。
若者に向けて書かれたとのこと。
納得です。
原典が4巻まであるのですが、3巻の最初の方までを書かれているそうです。
そこが面白い、と。
『おちくぼ姫』を読んで、原典の『落窪物語』を読んだ方もおられるのではないでしょうか。
私も気になります。
最近というか、ちょっと前から続いている作品で人気がある、顎木あくみさんの『わたしの幸せな結婚』は、ご存じでしょうか。
映画化もされています。
うっかり観に行ってしまいそうになりました。
流行に遅れるはずの1ミリ書店員らしからぬ衝動。
その理由は、「余談」にて。
『わたしの幸せな結婚』は「和製シンデレラ」と言われています。
確かにシンデレラ要素ありです。
不遇な環境で育った女の子には、幸せになってもらいたいし、いじめていた人たちには、それ相応の償いをさせたいと思うのは、人情!
さあ、それまでの行いのしっぺ返しを食らう敵役は、『おちくぼ姫』にも有りや無しや!
ぜひ、おうちに連れ帰ってお読みくださいー。
よければ、『おちくぼ姫』と『わたしの幸せな結婚』どっちも!
1ミリ書店員の1ミリ豆知識
古典作品では、『源氏物語』がその時代の作品を分ける基準となっています。
『源氏物語』以前の作品を「前期物語」といいます。
『落窪物語』はこの前期物語に入ります。
『源氏物語』以後の作品は、「後期物語」といいます。
代表的なのは『狭衣(さごろも)物語』です。
こちらも恋物語で、主人公の狭衣がモテ男で報われないダメ男の噂あり。
読んだことはないですが、こちらも気になります。
『源氏物語』があったから、後期物語はぐっと作品の質も上がったと言われているそうです。
どんな人におすすめ?
- 穏やかなサクセスストーリーが好きな人。
- 女性が大切に愛されるお話が好きな人。
- ハーレクイン作品が好きな人。(物足りないかも)
余談
実は、流行の波に遅れて乗る1ミリ書店員も、今回ちらりとご紹介した『私のしあわせな結婚』を読んでいるんです。
流行に遅れる1ミリ書店員の名も、一時返上ということで……。
マンガから入ったので、原作小説はまだ読んでないですが、コミカライズを担当されている高坂りとさんの絵が、作品世界を見事に具現化してくれています。
私に言われるまでもなく、そもそも、それができるから、この方が担当されているのだと思いますが……。
眼福です。早く続きが読みたい。
今回も、最後までお読みいただきありがとうございます。